
2025/08/05
保護者どうしのつながりを生かして、町に働きかける
性教育講師
採用事例
自治体採用

にじいろじかん/性教育講師
竹内 真紀子さん
長野県軽井沢町にある軽井沢中学校では、2024年度のモニター実施を経て、2025年度に町の予算で『コロカラBOOK』を採用してくださいました。採用のきっかけの一つは、性教育講師を務めるかたわら、ボランティア団体を主宰し、町内の包括的性教育の普及に取り組んできた竹内真紀子さんによる働きかけでした。ふだんのご活動や、採用に至るまでの経緯について伺いました。
——ふだんのご活動について教えてください。
竹内さん:性教育の外部講師として、主に幼児から中学生、子育て中の保護者や教員等を対象に講演を行っています。講師の依頼は個人として受けていますが、それとは別に「にじいろじかん ~ライフスキルを育む性教育~」というボランティア団体を主宰して、包括的性教育について学びたいと思っている保護者の方々と一緒に勉強会などを行っています。
また、以前は東京都武蔵野市に住んでいたのですが、2021年の秋に長野県軽井沢町に移住し、県内には小学校から段階的に性教育を実施している学校があると知って驚きました。子どもたちの健全な成長のため、また、より性暴力が起きにくい環境作りのために、この水準を維持し、学校間の格差を小さくすることが大切だと思い、継続的に町に働きかけを行ってきました。
——町への「働きかけ」について、具体的に教えてください。
竹内さん:はじめは軽井沢町の教育委員会のなかにある、こども教育課というところで話を聞いていただきました。学校や幼稚園・保育園、子育てに関わることなどを担当している課で、学校に関する予算もここが決めることになります。
子育てを通じて知り合った保護者のなかに、町の担当者の方と継続的に打ち合わせ等を行われてきた方がいらして、最初はその方々にどこに行くといいのかなどを教えてもらいました。それぞれ関心は異なりますが、子どもの教育環境をよくしたいと願っているという点では同じで、「性教育、大事だと思うから一緒にいくよ」と言ってくれました。事前にアポをとって、はじめは6人くらいで訪問したと思います。
その後、包括的性教育が人権教育であるということを理解していただき、2024年度には、町内のすべての保育園、小学校、中学校に対して町から包括的性教育のための予算がおりました。軽井沢町は保育園が4園、小学校が3校、中学校が1校と小規模なので、比較的動きやすかった面もあったと思いますが、その予算を使って、子ども、保護者、教員向けに講演を実施することができました。
今年も引き続き予算は出ていますが、私が担当するのは保育園のみとし、小学校、中学校については誰を呼ぶかは各学校に委ねられています。各校各園と丁寧に打ち合わせをし内容を決めていくため、自分ひとりではなく、色々な方に参加していただける形のほうが継続的かつ包括的な実施につながるはずだと考え、町内在住の助産師さん他、専門家の方々とも情報共有を続けています。
——2025年度に、町の予算で『コロカラBOOK』を採用するに至った経緯を教えてください。
竹内さん:まず、性教育外部講師仲間の医師から『コロカラBOOK』のことを聞き、「すごくいい!」と思いました。最近は書籍もいろいろ出てはいますが、教科書のように学校で使えるものはなく、中学生に向けて紹介できるちょうどよい本がないと感じていました。YouTubeなどで動画を観ることもできますが、関連動画からあまり好ましくない方向につながっていってしまう懸念もあります。外部講師として学校に行く機会はあるものの、一回の講演で話せる内容は限られます。
性のことは、一度の講演会だけではなく継続的に知ることが大事ですので『コロカラBOOK』があるとすごくいいです。前半「教室で観よう」は、指導要領の範囲におさまる内容で編集されているので学校でも使いやすいですし、子どもがもっと知りたいと思ったときには(ほとんどの子がそう思うだろうと思いますが)後半「自分で読もう」が応えてくれます。
そこで、中学校で活用できそうか先生方に伺ったり、こども教育課に話をしにいったりしました。中学生がさまざまな性情報に接していること、それなのに正しい情報を届ける媒体が少ないこと、そして『コロカラBOOK』は正しい情報を中学生に伝えるのにぴったりで、しかも学習指導要領にも沿っていることなどを説明しました。
そうしたところ、学校では、忙しい先生方の準備が省け、かつ内容も子どもたちたちの実情に沿っていると興味を示してくださいました。また、こども教育課でも担当の方がすごく理解を示してくれて、教育長にも『コロカラBOOK』を紹介をしてくださいました。教育長には今までのご経験から包括的性教育が必要であるという認識がおありで、最終的に教育長のOKをいただくことができました。町から中学の校長先生にも連絡がいきましたが、「学校としてもこういう教材があったらいい」と後押ししてくださいました。
——そのときは、お一人でこども教育課にいかれたのですか?
竹内さん:各校での性教育実施に関連してこども教育課に伺う機会が何度かあったので、基本は個人で動きました。でも「にじいろじかん」のような場があることで、考えを共有したり応援してもらったりすることができ、支えになっています。
自分の子どもが幼稚園、小中学校に通っているので、それぞれの保護者とつながる機会があります。そこで「実は困ってたんだよね……」「大事だと思いつつどうしたらいいかわからなくて……」「おうち性教育実践しているんだけど、もう一歩踏み込んで教えるにはどうしたら……」といった悩みをたがいに共有するうちに少しずつ仲間が増えてきました。いまでは関わり方は様々ですが、一緒に動いてくれる人が20人くらいいます。
仲間がいるということはすごく大きいと感じます。人が増えてくると大きなこともできるようになりますし。ただ、人数が増えるということは、それだけ異なる背景をもった人が集まるということです。「いろんな人が集まってフラットに話せる場所づくり」ということを常に意識しています。

——26年度以降も継続して『コロカラBOOK』を使っていただけたらうれしいです。
竹内さん:26年度以降も予算がでるという認識ではいますが、実際にどうなるかはわかりませんし、経過報告をする必要はあると思っています。軽井沢町は単身赴任の先生も多く、校長先生も三年ほどで異動になることが多いです。ですから、先生が変わっても『コロカラBOOK』を使い続けたいと思っていただくことが重要です。先生方に理解していただかないことには、子どもの手に届きません。まずは、現場の先生に包括的性教育をよく知っていただくこと、そして『コロカラBOOK』がそのまま授業で活用できると知っていただくことが大切だと考えています。
軽井沢町では、もともと段階的な性教育が行われていた学校が多く、長野県の教育委員会にも「性教育が必要だ」という認識があるようで、性教育に関する保護者向けの勉強会・研修会に対して補助金がでる制度※もあります。素晴らしいことですが、実際には学んできた先生がいらっしゃるかどうかなどによっても状況が変わってくるので、地域差がかなりあると感じています。
ただ、ほかの自治体でも「『コロカラBOOK』のようなものがあれば……」と探しているところは多いのではないでしょうか。軽井沢町は中学校が1校ですが、もっと多い自治体であれば、例えば「20校のうち10校には予算をつける」というようなやり方もできるかもしれません。「軽井沢だからできるんだよ」と言われることもありますが、『コロカラBOOK』は1冊990円、中学三年間で考えれば一人あたり年に330円です。330円で養護教諭や保健体育教員以外でも授業で活用でき、アダルトコンテンツからではない正しい知識を得られて、性暴力や性被害を防ぐ力にもなり、相談先もしっかり伝えることができる。けっして高い金額ではないと思います。
※勉強会・研修会に対して補助金がでる制度:子どもの性被害予防のための取組支援事業補助金
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