
インタビュー
中学校で使うための包括的性教育教材として刊行された『コロカラBOOK』ですが、予算や時間の都合、包括的性教育についての理解の不足、周囲からのサポートが得づらいことなど、学校で採用していただくにあたってはさまざまな課題が残っているのも事実です。
そうした事情があるにも関わらず『コロカラBOOK』を採用してくださった学校では、どのようにして採用に至ったのか。そこで、どんなふうに授業が実践されているのか。そして、どうしたら今後も継続的にお使いいただけるのか。関係者の方々に、コロカラ編集部がお話を伺いました。
いま、そしてこれからを生きる子どもたちが、あたりまえに包括的性教育を受けられる社会を目指して──。学校における包括的性教育を望む皆さまといっしょに考えつづけ、課題をひとつずつ解決していけたら、と願っています。
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佐々木 美和 先生
札幌市立中島中学校/養護教諭
北海道札幌市
『コロカラBOOK』を使うことが、「人権教育」につながったと思います
授業実践
採用事例
養護教諭
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ミナタニ アキ さん
NPO法人 にこっと
愛知県犬山市
保護者、PTA、NPO法人…さまざまな立場から、学校との協働を模索して
NPO
PTA
採用事例
無料モニター

アンケート結果報告
コロカラ編集部では、2023年12月1日から2024年1月15日に、クラウドファンディング「# 学校で性教育を」を実施しました。総額6,984,893円のご支援をいただき、中学校向けの包括的性教育教材『コロカラBOOK』を全国の約35,000人の中学生に無償配布することができました。
本アンケートは、その無償配布先(計129校)の生徒・教員・保護者を対象として実施されたもので、2024年4月1日から2025年3月31日までに、80校(生徒:7887人、教員:200人、保護者:630人)からご回答をいただきました。
※アンケートへの回答は、『コロカラBOOK』を用いた授業を1コマ以上実施した学校において、一回もしくは複数回の授業後に行われました。
※生徒・教員・保護者それぞれに異なる5〜7つの質問項目に対し、選択式もしくは記述式で回答していただきました。
※1〜4段階の選択式回答においては、1を否定的な回答、4を肯定的な回答(2, 3については、その中間的な回答)として位置づけ、自身にもっともあてはまる数字を選んでもらう形式をとりました。
※自由記述回答については、明らかな誤字・脱字を除き、原則的に原文のまま掲載しています。
※アンケートには、個人が特定できる形では公表しないことを明記したうえで、ご協力いただきました。情報の取り扱いには万全を期しておりますが、取り下げてほしいコメントなどがございましたら、お問い合わせフォームよりお申しつけください。
※本サイト内では、アンケート結果を抜粋してご紹介しております。全回答をご覧になりたい方は、こちらをご参照ください。

コロカラBOOKの中に「知ることができてよかった」
と思う内容はありましたか。


編集部コメント
約8割の生徒から肯定的な回答(3, 4)を得ることができました。否定的な回答(1, 2)についても、まったくなかった(1)は4.4%にとどまり、ほとんどの生徒にとって何らかの「知ることができてよかった」内容があったことがわかります。続く「『知ることができてよかった』と思う内容があれば、具体的に教えてください」への回答からは、多くの生徒が『コロカラBOOK』の内容を素直に、そして興味をもって受け止めてくれたことが感じられてうれしいです。
編集部コメント
約8割の生徒から肯定的な回答(3, 4)を得ることができました。否定的な回答(1, 2)についても、まったくなかった(1)は4.3%にとどまり、ほとんどの生徒にとって何らかの「知ることができてよかった」内容があったことがわかります。続く「『知ることができてよかった』と思う内容があれば、具体的に教えてください」への回答からは、多くの生徒が『コロカラBOOK』の内容を素直に、そして興味をもって受け止めてくれたことが感じられてうれしいです。
「もっと知りたい」と思うことがあれば具体的に教えてください。
なぜ政治家は今まで男性が多かったのか。
なぜ差別をするのか。
具体的に自分と相手の「嫌」を尊重できるコミュニケーションの取り方。
今まで習ってきたことをどのようにして私達の学校生活に繋げればいいか知りたい。
たくさんの自分とは違う考え方の人としゃべったりして、その人のことを詳しく知ってみたい。
ジェンダーに対して、日本ではどのような取り組みが行われているのかさらに調べてみたいと感じた。
編集部コメント
『コロカラBOOK』で学んだことをどのように実生活に結びつけたらいいのか考えたり、学んだことを踏まえて自ら問いを立てたりする生徒の様子を伺い知ることができる回答がたくさんありました。「知りたい」「学びたい」という子どもたちの気持ちを改めて感じ、教材会社として、またひとりの大人として、その気持ちに応えられるようでありたいと思いました。
コロカラBOOKの内容を中学校で扱うことについて、どう思いますか。


編集部コメント
ほぼ9割の生徒が『コロカラBOOK』の内容を中学校で扱うことを肯定的(3, 4)に捉えていることがわかり、とても励まされる思いです。一方、否定的な回答(1, 2)をした生徒からは、包括的性教育の内容を恥ずかしく感じたり、学習したことが冷やかしや冗談のように扱われることを心配したりする声が寄せられました。内容によって恥ずかしさや忌避感を抱くことは自然なことですが、そうした気持ちをきちんと受け止めつつ、より多くの生徒が安心して授業を受けられるような工夫をしていく必要があると感じました。
インターネットとかじゃなくて、正しい情報を学校で知れるから。
自分の体や心について不安がある人がたくさんいると思うけど、これを読んだら自分は大丈夫と自信をつけれると思ったから。
性教育は教えた方がいいと思うけど、少し恥ずかしく思う。
その後ネタにしないようケアしてほしい。
次の社会を担う人達がこういう事を知っていると、みんなが生きやすくなるから。
編集部コメント
ほぼ9割の生徒が『コロカラBOOK』の内容を中学校で扱うことを肯定的(3, 4)に捉えていることがわかり、とても励まされる思いです。一方、否定的な回答(1, 2)をした生徒からは、包括的性教育の内容を恥ずかしく感じたり、学習したことが冷やかしや冗談のように扱われることを心配したりする声が寄せられました。内容によって恥ずかしさや忌避感を抱くことは自然なことですが、そうした気持ちをきちんと受け止めつつ、より多くの生徒が安心して授業を受けられるような工夫をしていく必要があると感じました。
その他、コロカラBOOKについてのご意見・ご感想などがあれば、
なんでもお聞かせください。
聞きたいし、知りたいけど口に出せないことが載っていて良かったです。
小学生もコロカラBOOKみたいのがあった方がいいと思う。
雑誌のようなおしゃれな表紙で、持っていて恥ずかしくないと思った。
保健の教科書などに書かれている女の子の体のイラストは、くびれが極端であったりして嫌だったが、コロカラBOOKに載っているものは見て不快にならなかった。
イラストや、色味、いろいろとみやすかったです。自分が悩んでいることについてもかかれていて、自分は普通だったんだ、変じゃなかったんだって思えました。本当にありがとうございます。これからもたくさんの人が救われることを祈っています。
不快感を感じる人もいるようなデリケートな内容で難しいと思いますが大切なことなのでしっかり学習しようと思えました。
悩んでいたことを解消できてとてもいい本だなと思いました。私以外にも悩んでいる人がいるんだと思い安心しました。
編集部コメント
内容・構成・デザイン・イラストなど、多岐にわたる項目について中学生の率直な意見・感想が寄せられました。全体的に好意的な意見・感想が多かった一方、❸に対してと同様にネガティブな回答も見られました。生徒たちの率直な気持ちを丁寧に拾いあげながら、その背景にある要因にも目を向けつつ、改善策を考えつづけていきたいです。
担当教科・授業を実施した時間※複数回答形式
普段ご担当されている教科
どの時間を使って実施しましたか。
編集部コメント
『コロカラBOOK』は、包括的性教育の経験がない先生にも授業がしやすいよう構成されています。教材の前半「教室で観よう」では、先生は進行役となり、専門的な内容は助産師で性教育YouTuberのシオリーヌさんが動画で解説してくれます。本の後半「自分で読もう」は、興味・関心や必要性に応じて生徒が自ら読むことができる形式をとっています。
担当教科についての回答からは、上記の工夫によって、保健体育や養護の先生といった包括的性教育に関係の深い先生以外にも、さまざまな教科の先生が授業を実施したことがわかります。同様に、授業の実施時間についての回答からは、「特別活動」「総合的な学習の時間」「道徳」といった、担任が授業を行うことが多い時間に『コロカラBOOK』が使われたこと、また保健体育のみならず、理科や家庭分野など、包括的性教育と関係のある分野の内容と絡めつつ、普段の授業のなかに柔軟に取り入れられたことが読み取れます。
包括的性教育は現在の中学生にとって必要だと思いますか。


編集部コメント
62.8%の先生が「そう思う」(4)と回答していることから、半数を超える先生方が包括的性教育の必要性を強く認識していることがわかります。さらに、肯定的な回答(3, 4)を合計すると、その割合は94.0%にのぼり、大多数の先生が「包括的性教育が現在の中学生に必要である」と考えていることが明らかとなりました。
コロカラBOOKを使った授業実施はいかがでしたか。


編集部コメント
『コロカラBOOK』を使った授業の実施のしやすさについては、76.6%の先生から肯定的な回答(3, 4)が得られました。約20%の先生が何かしらの難しさを感じてはいるものの、包括的性教育という多くの先生にとって経験のない内容の授業であることを踏まえれば、76.6%というのは決して少なくない数値だと感じました。前述のとおり『コロカラBOOK』はご経験のない先生にも安心して使ってもらえるよう配慮を施していますが、より多くの先生にとって使いやすい教材となるよう、さらなる改善を図っていきたいです。
生徒たちが知りたい情報(嘘のない確かな情報)、私達が教えたい情報が載っている。
主な説明が動画だったおかげで、教員による指導の違いが生まれなかったから。
テキストに沿って話ができるので生徒が浮わつかずによかったです。
教材が整っているので、準備時間が短縮された。
授業時間の少なさや、指導要領を鑑みた単元・授業構成が難しいと感じた。
編集部コメント
『コロカラBOOK』を使った授業の実施のしやすさについては、76.6%の先生から肯定的な回答(3, 4)が得られました。約20%の先生が何かしらの難しさを感じてはいるものの、包括的性教育という多くの先生にとって経験のない内容の授業であることを踏まえれば、76.6%というのは決して少なくない数値だと感じました。前述のとおり『コロカラBOOK』はご経験のない先生にも安心して使ってもらえるよう配慮を施していますが、より多くの先生にとって使いやすい教材となるよう、さらなる改善を図っていきたいです。
その他、コロカラBOOKについてのご意見・ご感想をお聞かせください。
人権や生き方により焦点が当たった内容でとても良かった。
生徒たちは冊子はいつも放ったらかしにするのに、今回の冊子の中身の良さと、作られた経緯を簡単に説明することでクラス全員持って帰ってくれた。恥ずかしくて学校で読めなくても、家で読めるのはありがたい。そして、持ち帰りやすい表紙も良かったです。
とてもわかりやすいので道徳授業で活用させてもらいました。人との関わりを知るためにいろいろな意味で参考になる本です。
無料で配布してくださったので、授業に積極的に使うことができた。金額は市が負担してでも全生徒に配布するべき内容だと思った。しかしながら、副教材の金額を上げることは、簡単にはできないので、現実問題きびしい側面がある。
実際に使った学校の担当者でコミュニケーションを取りたい。
編集部コメント
包括的性教育や『コロカラBOOK』を歓迎するご意見を複数いただいた一方で、時間や予算を確保することの難しさ、また学校内での気運が高まらなかったことなど、学校で包括的性教育を実施するにあたっての現実的な課題を示す回答も見られました。これらについては、先生方への個別の聞き取り調査も重ねつつ、引き続き改善策を検討していきたいと思います。
包括的性教育は現在の中学生にとって必要な内容だと思いますか。


編集部コメント
肯定的な回答(3, 4)をした保護者の割合が93.3%という非常に心強い結果となりました。なかでも、約70%が「そう思う」(4)を選択していることから、大多数の保護者が包括的性教育を強く支持していることがわかります。次の❷の結果と合わせて、学校における包括的性教育の推進につながることを願っています。
包括的性教育はどこで実施されるのがいいと思いますか。※複数回答形式
編集部コメント
「家庭」(243)を「学校」(608)が大きく上回る結果となりました。後の❺にも見られるとおり、家庭での包括的性教育の必要性を感じてはいるけれども、自身の知識や経験が乏しいこと、また気まずさや恥ずかしさがあることなどから難しさを感じており、学校での実施を望む保護者が多い実態が伺える結果となりました。
包括的性教育の教材を購入して学校で授業を
実施することについて、どう思われますか。


編集部コメント
とてもうれしいことに、包括的性教育の教材を購入して学校で授業を実施することを、85.1%の保護者が肯定的(3, 4)に捉えています。この質問には『コロカラBOOK』の定価が990円(税込)であることを明記していました。ですから、8割を超える保護者が、990円の教材を購入してでも中学校で包括的性教育を行ってほしいと考えているのだということができます。
その他、コロカラBOOKについてのご意見・ご感想をお聞かせください。
フラットな描き方で読みやすかった。私もこのような教育を受けたかった。
大事な事だと分かってはいますが、恥ずかしくて、気まずくて、今さらどうやって息子や娘に性の話しをしたらいいのか、、、もし学校で授業してくれたら有り難いです。この本はとても分かりやすく、家に一冊欲しいです!!
ネット時代の子どもたちは情報が溢れかえってる中から正しい情報をピックアップするのは難しいと思います。同じ世代の子どもたちが同じ環境(学校)で学ぶことは情報が共有できるいい時間だと思います。ぜひこれからも子どもたちが学べる機会を作っていただきたいです。
私達親世代の頃には考えられないような多様な情報が載っていて驚きました。でも、こうやって一通り説明してもらえたら、1人で悩まなくてもいい子が増えるかなと思いました。あとはどれだけ周りの大人や先輩達が悩める思春期の子たちに寄り添ったり、安心させてあげられるか、ですね。
なかなか伝えにくい内容ではありますが、生徒全体の認識が一致して初めて、効果を発揮するものだと思います。よろしくお願いします。
編集部コメント
最後の自由記述回答には、これまでの回答結果の背後にある思いを伺い知れるコメントがたくさんありました。包括的性教育の必要性を知りつつもそれを家庭で実施することの難しさ、自分たちが受けることができなかった教育をこれからの子どもたちに届けたいという願い、子どもたち以上に親や保護者世代が学ぶことの重要性など、多くの切実な声が寄せられました。

水野哲夫 先生
一般社団法人“人間と性”教育研究協議会代表幹事
アンケートから見えてきたこと
本アンケートの特徴
⑴ 9,000人近い回答―未曽有の規模
中学生7,887人、教員200人、保護者630人、合計8,717人からの回答がありました。包括的性教育の授業実践自体が非常に少ない日本においては、包括的性教育実践を踏まえたアンケート調査は学級や学年単位の小規模なものがほとんどであり、これだけの規模のアンケート調査は未曽有の画期的なものです。この規模が一つ目の特徴です。
⑵ 三者のアンケートで立体的把握
本アンケート二つ目の特徴は、三者(生徒、教員、保護者)の意見と意識を、共通の包括的性教育教材と授業をふまえて集約していることです。三つの視点からの選択と自由記述による回答は、学びの全体像を立体的に把握することを助けてくれます。
本アンケートは、生徒に対しては学びの主体者としての意識を、教員に対しては授業をつくる側としての意識や具体的な改善策などを問うものになっています。保護者に対しては、具体的な使用教材を踏まえて性教育に対する意見を聞いています。教員と保護者に対しては「包括的性教育」全体に対する意見を問う内容もありました。
三者のアンケート結果を見る
⑴ 生徒の回答
「知ることができてよかったこと」—8割近くが「あった」
①「知ることができてよかった」と思う内容があったかどうかという選択式の問いに対して、79.0%が肯定的な回答をしています。「1 まったくなかった」が4.4%にとどまったのも大きな特徴です。
次に、「『知ることができてよかった』と思う内容があれば、具体的に教えてください」に対する自由記述の総数は5,000名あまりでした。この数字は、①の選択式の問いの回答者総数7,808人に対してかなり高率です。こういう場合、自由記述が積極的に、意欲をもって行われるケースが多いものです。そのような積極性と意欲は、「知ることができてよかった」ことが多数あったということを反映したものでもあると考えられます。
「知ることができてよかった」と「もっと知りたいと思うこと」
—頻出語が示していること
①では「知ることができてよかったこと」を、②では「もっと知りたいと思うこと」を、それぞれ自由に書くように求めています。 たまたま「ジェンダー」が両方で1位でしたが、他にも共通の頻出語が数多く見られます。それらは生物学・医学的内容に加えて、心理学的・社会学的側面を含む内容に及んでおり、包括的なものです。このことは、これら包括的な内容を対象とする性教育(=包括的性教育)が生徒たちの求める学びとなり得る可能性を示しています。同時に、これまでの学習の中ではこれらの内容について充分に学んでこなかったという学習経験を反映しているとも考えられます。今後、頻出語の上位にあるような内容に関する学習、すなわち包括的性教育を充実させていく必要があるのではないでしょうか。
生徒
頻出キーワード
(19位は同率)
1ジェンダー
2性
3体/身体
4女性/女
5男性/男
6LGBTQ/LGBTQ+/LGBT
7相手
8ジェンダーバイアス
9性別
10生理/月経
11バウンダリー
12男女
13普通
14多様性
15人それぞれ
16性感染症
17妊娠
18赤ちゃん
19心
19コンドーム
1ジェンダー
2性
3体/身体
4女性/女
5男性/男
6LGBTQ/LGBTQ+/LGBT
7相手
8ジェンダーバイアス
9性別
10生理/月経
11バウンダリー
12男女
13普通
14多様性
15人それぞれ
16性感染症
17妊娠
18赤ちゃん
19心
19コンドーム
生徒
頻出キーワード
(8位、13位、16位、19位は同率)
1ジェンダー
2LGBTQ/LGBTQ+/LGBT
3性
4体/身体
5男性/男
6女性/女
7心
8性別
8日本
10赤ちゃん
11差別
12ジェンダーバイアス
13相手
13生理/月経
15男女
16妊娠
16多様性
18ジェンダーレス
19コンドーム
19病気
1ジェンダー
2LGBTQ/LGBTQ+/LGBT
3性
4体/身体
5男性/男
6女性/女
7心
8性別
8日本
10赤ちゃん
11差別
12ジェンダーバイアス
13相手
13生理/月経
15男女
16妊娠
16多様性
18ジェンダーレス
19コンドーム
19病気
「コロカラBOOKの内容を中学校で扱うこと」―肯定的回答が9割近く
③では「コロカラBOOKの内容を中学校で扱うことについてどう思いますか」を尋ねています。「4 いいと思う」46.7%、「3 (まあいいと思う)」42.9%、合計89.6.%でした。合計もさることながら、最も肯定的な4が3よりも多かった点が特徴的です。「1 よくないと思う」は2.0%にとどまりました。
これだけ肯定的な回答が圧倒的であることをどう捉えたらいいでしょうか。生徒たちのこの肯定的な回答の根拠となった体験は、「知ることができてよかった」でしょう。そして「もっと知りたいと思うこと」がこれからの性の学びに求めるものだと考えられます。求めるものの内容は前節で紹介した頻出語が参考になります。それらが仮におとなたちの考える内容と異なっていたとしても、この生徒の声をまずはしっかりと受けとめることが求められているのではないでしょうか。
⑵ 教員の回答
9割以上が「包括的性教育は中学生に必要」
教員の回答は200人でした。『コロカラBOOK』を使って授業をした80校からの回答ですから、平均すると1校あたり2.5人の方が回答したことになります。各校での『コロカラBOOK』を使った授業が、比較的小さな規模の教員集団で行われていることを示しているのかもしれません。
教員の回答で注目したのは③「包括的性教育は現在の中学生にとって必要だと思いますか」です。結果は圧倒的な「イエス」でした。「4 そう思う」62.8%、「3 (まあそう思う)」31.2%、合計すると実に94.0%が「必要」と回答しています。否定的な回答は6.0%にとどまりました。『コロカラBOOK』の配布に手を挙げ、しかもそれを使った授業も実施した学校の先生方のアンケートなので、「必要」と考える回答が多いのは当然かもしれませんが、それにしても実際に経験された方による9割以上の「イエス」は、説得力のある心強い回答結果です。
「実施しやすかった」が多数
③「実施しやすかった理由」「難しかったこと」への回答では、「実施しやすかった理由」の記述が大部分で、「難しかったこと」の記述は少数でした。「実施しやすかった理由」は、「分かりやすい」「教材が工夫されている」「動画で重要な点を述べてくれる」が多く、初めて性教育の授業をする教員も含めて『コロカラBOOK』を使った授業が比較的抵抗なく行われたことを示しています。
「指導案・授業ポイント、指導例なども必要」「実際に使った学校の担当者でコミュニケーションを取りたい」「特別支援教室・学級・学校用があるといい」など、さまざまな要望も述べられています。今後、より多くの現場で『コロカラBOOK』を使って性教育の授業が行われるためにも、これらの要望に対する編集部の対応、改善を期待します。
⑶ 保護者の回答
中学生に必要―圧倒的な高率
保護者への①「包括的性教育は現在の中学生にとって必要な内容だと思いますか」に対する回答を見てみましょう。「4 そう思う」と「3 (まあそう思う)」の合計は、教員とほぼ同じ93.3%でしたが、特徴的なのは最も肯定的な回答「4 そう思う」が、69.8%と非常に高かったことです。
保護者がこれほど包括的性教育を必要だと考える背景には何があるのでしょうか。保護者の数多くの自由記述からうかがえるのは、SNSでの被害も含む性暴力・性犯罪の増加や、生徒たちがインターネット等で不正確な性情報しか得ていない現状への不安です。家庭での教育は必要だとは思うがなかなか難しいので、学校でしっかり教育してほしい、という切実な願いが読み取れました。
また、「私自身も今回テキストを読み、新たに認識することも多かったです」「自身の中学時代にもこのような本が欲しかったと感じました」など、おとな自身が性について学ぶ必要性について述べている点にも注目する必要があると思います。おとなの学びは、子どもたちの学びを励まし、勇気づけるはたらきを持っています。
アンケートを活かす
⑴ 中学校における性教育の実情
全国の一定規模以上の中学校724校を対象にした2017年の調査(橋本紀子、茂木輝順ら)では、日本の中学校での性教育の授業数は、平均して3年間で8.62時間、1年間では3時間未満に過ぎません。また、同調査では、「性教育で扱う内容」は、「身体」「妊娠」「性感染症」「月経」「射精」などが80%以上超である一方、「男女平等」「性行動」「避妊」「自慰」などは50%以下となっており、包括的な性教育とは言えない内容です。
また、中学1年保健体育科の学習指導要領には「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という「はどめ規定」があります。文科省は、「はどめ規定」は、「これらの発展的な内容を教えてはならないという趣旨ではなく」「学校において特に必要がある場合には、この事項にかかわらず指導することができる」と説明していますが、これを理由に性教育実践をためらってきた学校現場があるのも事実です。
⑵ すべての子どもに包括的性教育を―本アンケートをもっと役立てよう
本アンケートを概観してくると、回答してくれた中学生、教員、保護者の多くが求める性の学びというものが、「からだ」「生殖」「性感染症」のことはもちろん、人間の多様性やジェンダー、人権と性、暴力と安全、コミュニケーションなどにも及ぶ、幅広い「包括的性教育」であることがよく分かります。中学校で実際に授業を経験した生徒と教員、そしてテキストを実際に見たり、生徒から話を聞いたりした保護者が、これほど包括的性教育の内容を支持しているという本アンケート結果を、これからの日本の性教育を充実させることに役立てたいと強く願うものです。
本アンケートには、まだ分析・読み取りの余地があります。アンケート結果の多様な分析・読み取りを共有・交流することが、学校における包括的性教育の推進につながっていきます。私は、所属する研究団体(性教協)の会報で、本アンケートの分析を連載していこうと考えています。
自分の意思を尊重していいこと。
今日から始められることが書いてあったのが良かった。
「普通」って言葉で、どれだけの人が苦しんでるのかを考えさせられた。
性暴力にあった際の証拠の残し方や検査が無料で受けられるところがあると知り驚きました。